エンジンを治そう
その排気量に見合わないスリムで軽量な車体は、峠でヒラヒラと遊ばせるにはもってこいであり、かつ巡行性能も十分に備えています。
行きたいところはどこへだって連れて行ってくれるのではないかと思わせてくれます。
(いい景色に出会えると幸せ)
かれこれ2年ほど、近くのお山から往復1000kmもの長距離ツーリングまで 、のべ1万5千kmもの旅路は語るに尽くせない思い出を生んでくれました。
1万5千km…そろそろ来るのではないかと思いながらも無事に過ごしてきましたが、機械ものである以上どうしても避けられないことがあります。それが機械トラブル。
去る2016年10月29日、走行中に突如としてエンジンがストール。
閑静な住宅街をトコトコと走っている最中、股下で潰れた空き缶を踏んだような音がしたかと思った途端、エンジン停止、後輪がロックしました。
異常を感じ、直感的にクラッチを握るまでその間0.5秒…速やかに道路脇へ…
とうとう私にもきてしまいました。エンジンのトラブルが。
この記事ではKTM 690 がぶら下げるLC4エンジンのトラブルを、なんとか自力で乗り切った記録になります。
同じLC4乗りの方の参考になればとまとめてみました。
ブログを書き慣れてない上にスマホでの編集になりますので読みづらい箇所多々あると思いますが、質問あればコメントいただければ答えますのでご容赦を…
その症状
具体的な症状は下記のとおり
- セルボタンを押すとモータは稼働しているようだが、"カッ"と鳴るだけでエンジンは回らない(クランクが一回転しきらない)。
- ギアを6速に入れ、人力で後輪を回そうにもロック状態で回らない。
- メーターには何もエラー表示はない
- 灯火類やディスプレイ等、電装関係にはトラブルはなさそう
- クラッチ切る または Nの状態での押し歩きには問題なし
嫌な予感がします。清くレッカーを呼びました
(いざすすめやディーラーへ)
ディーラーの対応は
最寄りのディーラーまでレッカー移動し、担当の方へこれまでの扱い方および故障時の状況を説明しました。結果、その場では何もわからないとのことなので預けることになりました。
ここから色々やり取りがあったのですが、まとめると以下の通り。
1.故障時の状況
(上述の通りなので省略)
2.これまでの扱い方
- オイル交換頻度は3,000km毎
- フィルターは6,000km毎
- 街乗り:オン:オフ = 7:2:1
- 暖機運転はしてる
- 回転数3000〜45000rpmが9割
3.ディーラーからの回答
- 原因はエンジン内部だろう。
- エンジンを開けないことにはなんとも言えない
- 腰上で20万
- 腰下あけるほどなら30万
- 見るだけでも工賃はかかる
- 不動車なので下取りは20万
- 購入から1年と11ヶ月なので保証期間内
- でも1年 or 10,000km点検をディーラーで受けてないから保証対象外
(値段はおおよそ、とのことです)
というわけで修理するなら結構な出費を覚悟しないといけません…どうしたものかと悩むこと数日、ついに結論に至ります。
修理の方針
出した結論は "自分の手で修理をしよう" です。
プラグすら交換したことのない私にその選択が無謀であることはディーラーの方の反応を見れば明らかでしたが、自分でなおすという選択肢があることに気づいたとき、なぜがワクワクしたのを覚えています。
そういうわけで、エンジンオイルとクーラントを抜いてもらうようお願いをし、自宅まで運んでもらいました。
さぁ帰っておいで…
(素敵なワンボックスで運んでくれました。)
その日一日は鬼のように情報を集め、修理に要する知識を仕入れました。
情報源は色々ありますが、とりわけネット上の海外ユーザーたちの経験はとても役に立ちました。彼らは世界中でありとあらゆるトラブルを経験し、乗り越えてきているのです。
さてみなさん、お持ちのバイクのトラブルで困ったなら、次の言葉をさえずりましょう
"KTM 690 〇〇 trouble…"
今回はエンジンなので"KTM 690 engine trouble" を詠唱。
(画像検索で目処を立てるのがオススメ)
LC4の持病
どうやらKTM690シリーズのエンジンであるLC4はロッカーアームのローラーベアリングに難があり、ハズレを引くとすぐ壊れるそうです。
海外フォーラムによると2013年の後半あたりから対策品になってるとのことです。私のは2014年製ですが…運が悪かったということで。
(出展 http://www.welikebikes.be/KTM690Wiki/index.php?title=690_Hall_of_Wisdom)
そもそもロッカーアームとは?
なにぶん初めての作業ですのでここから学びました。
ロッカーアームとは、ピストンの上下運動に合わせて吸気・排気バルブを押し下げる腕なのだそう。(押し上げるのはバネの力)
押し下げるタイミングはカムシャフトが決めており、カムシャフトはカムチェーンを介してクランクシャフトと同期回転させられてるわけですね。
(出展 www.1techicon.com)
しかしここで疑問が。上図を見る限りロッカーアームが折損した場合、スプリングによってバルブが閉まりっぱなしになりますが、それでも行き場を失ったシリンダー内の空気のor 排ガスがエアダンパーのように働き、復元力を生み出しこそすれ、後輪ロックには至らないはずでは…?
エンジンを降ろそう
ともあれエンジンを下ろし、現物を確認しないことには何も始まりません。
ロッカーアーム見るだけならエアクリボックスを外すとすぐ見れますが、普段の整備環境は砂が舞う団地の駐輪場。落ち着いて作業できません。そういうわけでエンジンを下ろし、自室まで担ぐことにしました。
(いつもの作業スペース。近所の子供は味方でいてくれます)
エンジン下ろし作業
今回の作業の中でこれが一番大変でした。DIYするなら少なくともKTM純正のエンジンスタンドぐらいは準備すべきです。これがないと、いつエンジンが落下するかわからない怖さの中作業することになります。
(お値段5,440円!)
ちなみに私は使用しませんでした。恥ずかしながらこの記事を書くまで54,400円と勘違いしてたのが理由です。
そういうわけで両手フル活用での作業です。あまり写真を撮ってないので悪しからず…。
まず、何が起きるかわからないのでバッテリーとヒューズを外します。(特に説明は不要なはず…)
次にガワを外し、エアクリボックスの固定ボルト4本および温度センサー、左サイドに繋がるエアベントホースを外し、スロットルバルブに繋がっているホースバンドを緩めればヌルヌルっとひっこぬけるはず。
(わりと力が必要です)
この時、何故かポタポタとオイルが滴り落ちました。これが、ぼっちバイカーさん(id:botti_bk)が言ってたブローバイガスによるものでしょうか。(参考→
KTMディーラーで1年点検を受けて本当に良かったと思った話 - ぼっちバイカーのブログ)
エアクリボックスを外したら、這いずり回った配線・ホースを外していきます。
(配線ルートはよく記録しておきましょう)
ここからはあまり写真がありません。陽が傾いてきたので作業を優先しました…
気をつけたことは、エキパイはつけたままにしたこと。
理由は、下ろす際にエンジンを揺すりたくなるんですが、コンパクトなエンジン、持つところがありませんので、エキパイ掴んでゆっさゆっさするためです。
格闘すること4時間ほどでしょうか…
(まるで肉食獣にやられた草食動物のよう…)
無事、摘出完了。
大変だったのはスイングアームピボットのシャフトを抜く作業ぐらいです。
シャフトはステップ、スイングアーム、フレーム、エンジンを一本で貫通させてるのですからはめ合い公差も厳し目です。
(赤矢印のがそのシャフト)
プラハンで叩いてようやく抜けるほどでした。
他、とりわけ気をつけたことといえば、部品は無くさないようにしたぐらい。具体的には
- 一時的に外すだけでいい部品は極力元の位置に戻す
(極力元の位置に)
- 上記ができない場合または取り替える予定の物は下の写真のように分ける
さて、あとはこいつを担いで自室まで運びます。これで落ち着いて作業ができる環境が整いました。
(後戻りはできない…果たせるかなこの大役)
破損状況① ロッカーアーム折損
ロッカーアームにアクセスするにはヘッドカバーを止めている4本のボルトを外します。
ちなみにこの蓋を締める際、パッキンの交換は不要なので悩むことなく開けることができます。
それでは開けてみましょう…
(パカッとね)
ようやく、ヘッドにアクセスできました。損害状況はというと…
案の定、ロッカーアームが破損していました。左が破損したin側で、ローラベアリング圧入部が割れて、ベアリングがバラバラに…
バラバラになった部品はというと…
(あなたはいくつ見つけられますか…)
こんな感じでベアリングの"ころ"がヘッド周りのいたるところに散りばめられてました。全部回収しないことには怖くてエンジンが回せません…血眼で探します。
磁石で釣り上げるのはもちろん、オイルラインに入り込んでしまったモノはストローで吸い上げることも厭わない覚悟で(おえ)
努力実って
(キタコレ)
全て救出。
他にはロッカーアームの破片も救出。
(ピッタリハマりました)
ともあれ、ロッカーアームは買い替えが必要ですね。KTM埼玉さんにてポチッとな
(新品との比較)
破損状況② カムシャフト
こんなゴツい部品が壊れることはそうそう無いと思いましたので特に気にしてはなかったのですが、よく見ると打痕がありました。
折れたロッカーアームの破片によるものだと思われますが、下の写真のようにごくわずかな段差。コンマ2ミリ程度です。
すごーく悩みましたが交換することに。理由は、この段差がバルブクリアランスに直に影響しそうであり、そのクリアランスは0.05mm単位でラインナップされるシムで調整されることから、比してコンマ2ミリは高いだろうとの思惑からです。これは高くつきそうだ…
(新品との比較)
破損状況③ カムチェーン破断
カムシャフトとクランクシャフトをつなぐカムチェーンが破断していました。
ロッカーアームの破片がカムシャフトの回転に巻き込まれ、何かに引っかかり回転ができなくなった結果、チェーンに大きなテンションがかかったのだと思います。そしてその引っ掛かりが後輪ロックの原因ではないでしょうか。であれば、カムシャフトに打痕が残るのにも納得です。
(カムチェーンお前もか…)
カムチェーンの破片を回収するため、そして新しいチェーンわを取り付けるためにはエンジン左下のイグニッションカバーを外し、フライホイールを外す必要があります。
これがちょっと曲者で、知ってしまえばどうってことないのですが、ケーシングの内側に取り付けられたコイルとフライホイールが磁力で強力にくっついており、結構な力で引っ張らないと抜けません。
(興味本位でクランク回してるところ 右下のがコイル付きカバー)
次にフライホイールを外します。
フライホイールはクランクシャフトのキーにハマってるわけですが、ただ引っ張っても固くて抜けませんので専用工具が必要です。フライホイールプーラーってやつですね。
(こんな感じで)
これでクランク側のギアにアクセスできます。
(イグニッションカバー内、フライホイールを取った様子。中は綺麗でした)
ここで初めてわかったのですが、シリンダーカバーの中でカムチェーンガイドも衝撃で大きく歪んでいました。
これもまた曲者で、こいつを取り外すためだけにわざわざシリンダーヘッドを外さないといけません。
シリンダーヘッドは下の写真4本のボルトを外すわけですが、(おそらく)塑性締めされてるので一度緩めると使い回しはできません…
締め付けトルクが60Nmもあるので一人で緩めるのは非常に大変でした。
(シリンダーヘッドを外したところ)
わかりにくいですが、チェーンガイドの凸部がシリンダーカバーに設けられた溝にハマっており、シリンダーヘッドが取り付いたままだと凸部がヘッドにぶつかって抜けないのです。
何はともあれチェーンとチェーンガイドは新調です。
新規部品の手配
破損した部品は大体こんなところです。壊れた部品はまた買えばいいのですが、基本的にディーラーでは在庫はありませんので本国からの輸送に2週間ほど待たなければいけないのが外車のイタイところ…。
詳しい人なら一発で必要部品を発注するのでしょうが私のような素人作業ですと、後から"あれも必要これも必要"となり、その度に2週間待たないといけません…
…その間は暇です。目の前にエンジンがある。何かしたい。
そこで、色々チャレンジしてみました。
堆積カーボン除去
せっかくのシリンダーを開ける機会なので溜まったカーボンを除去することにしました。
堆積状況は下記の通り
ヘッド側が特に汚かったので、バルブを取り外して掃除します。
バルブを外すにはバルブスプリングコンプレッサーとやらが必要で新たに用意しました。
またわかりにくい説明で恐縮ですが、バルブは普段スプリングにより上側に押し付けられていますが、このテンションは⑦リテーナーと⑧コッターを介してバルブに伝わっています。
というわけで一旦スプリングを押し緩め、コッターを外さないことにはすっぽ抜けません。
バルブスプリングコンプレッサーとは、上記押し緩めるための特殊工具というわけです。
写真を見ていただくとわかりやすいと思います。
(こうやって使うようです。)
(特殊工具でリテーナを押し下げてる様子。バルブの頭についた半割れの部品がコッター。)
ただこのツール、安かったのでそれなりのクオリティ…支点の軸がズレていてバルブにまっすぐ力を伝えることが困難でした。なんとかコッターは外れましたが。
バルブの状況は以下の通り
(排気側)
(吸気側)
吸気側は綺麗ですがとてもオイリーですね。これらカーボンを除去するため、下のケミカルを使ってみることに。
これ、かなり刺激性が高く、肌に吹いてみたら結構痛みがありました。手袋はもちろん、保護メガネが必須です。また、塗装面に付着すると即剥離なので吹き付けの際もご注意を。私は下の写真のようにペットボトルを切ったもので覆いをして飛散を防止しました。
これは自論ですが、体に悪いものは効果が高いと思います。なので期待できそうです。
(しゅしゅしゅーっとな)
…申し訳ないですが全然落ちませんでした。カーボンに厚みがある箇所はほとんど効果がないようです。
諦めようかと思いましたが、色々試したところ、サンポールに行き着きました。
リムーバと混ざると有毒ガスがでますので真似しないでください。
さて主婦の味方サンポールの実力はというと…
結構取れたと思うのですがどうでしょう?
少し話が逸れますが、シリンダー内面、どうやら特殊な表面処理が施されてるようで、研磨したものとは違う肌触りでした。乾いてるのにヌルヌルというかなんというか。そういうわけでピストンのカーボン除去にあたっては上死点になるまでクランクを回し、シリンダー内面には極力何も影響を与えないように注意しました。
何はともあれピカピカで満足です。
バルブシート面の擦り合わせ
上でカーボン除去についてふれました。素人の考えですがカーボンの堆積それ自体が問題というよりは、カーボンがシートに噛みこむことで起こる吸排気漏れ(圧縮比未達)や、漏れによるエアカットが問題だと思います。
そういうわけできっとこのエンジンもバルブ・ヘッドのシート面がガタガタになっているに違いない。時間もあるしシート面の擦り合わせをすることにしました。
(ヘッド側のシート面。カーボン噛みすぎ!)
擦り合わせとは、シート面に研磨剤を塗りつけてバルブを閉じ、こすることで両シート面を研磨しよう!ということです。
そのためのツールが下画像の"たこ棒"。
使い方ですが、バルブの裏(シリンダー側)にタコ棒の吸盤をくっつけて、火起こしのように錐揉みしながらヘッド側に叩きつけるのがネットでの主流。
当方は不慣れですし、叩きつけなくても普通にシート面押し付けながら錐揉みでも問題ないのでは?と思ったので我流でやりました。
作業にあたっては研磨剤が他駆動部についてしまわないよう、注意です。
エンジンの回転数で研磨されるのでそれこそ被害甚大です。
次にホントに擦り合わせできてるのかを確認するために、バルブ側またはヘッド側どちらかのシート面に塗料を塗り、シートを合わせます。
(注意!これは塗りすぎ!)
色々流派があるでしょうが、ここも
我流で。
シート面には光明丹と呼ばれる粉体塗料を塗布します。粉体なのでエンジンオイルにでも混ぜて伸びを良くし、片方のシート面にうすーーーく塗ります。
そして勢いよくシート面をぶつけるのですが、タッチするのは極力短時間で。軽く叩きつけてすぐ引く感じで確認しました。
シート面、結構ムラがあります。こうなるともう一回擦り合わせ作業を。均等に接触していれば、均等に色がつくはずです。
(左下は拭っちゃったので消えましたが、概ね均等)
これで、圧縮漏れが軽減され、レスポンスの向上とエンジンパワーの回復が期待できそうです。
閑話休題、修理に戻ります。
部品の組み付け
組み付けは構造を理解した後なので簡単でした。なので注意点だけ…
まず何よりも注意いただきたいのが、バルブクリアランス調整用のシムは慎重に扱うことです。
このエンジンはクランクケース、シリンダーカバー、バルブヘッドカバーを4本のボルトで締め付ける構造になっています。60Nmで締め付けるやつです。
このボルト穴、結構大きくて、何かの拍子にシムを落っことしてしまったならそれこそ腰下までバラす必要がありますのでご注意を。
(入っちゃうので注意)
次に新調したカムチェーンについて。
新調したチェーンは輪っかになってやってきました。別にそれはいいのですが、このために新調したチェーンカシメツールはお蔵入りに…
(さらば…)
カムチェーンの組み付けですが、ここは慎重に。というのも、ずいぶん上で書きましたが、チェーンはクランクシャフトとカムシャフトを同期回転させるものです。
ですので、クランクのギア(ピニオン)とカムのギアを位置合わせした上でチェーンを組まないといけません。
怖いのは、1,2コマズレていても組み上がっちゃうところ…
その合わせ方について、まずはクランクシャフトの上死点を出します。ピストンが一番上に来る位置までカムを回しましょう。
(クランクを回しているところ)
上死点の位置に来ると下写真の左下のように適当な棒がスコッと刺さるはずです。これでクランクを上死点でロックできます。
(ピストンが上死点に来てスコッと棒が入るところ)
上死点でロックしたら、ガスケットの当たり面を綺麗にして新調したガスケットを置き、
バルブヘッドを乗せます。
そして4本のボルトを60Nmで締める訳ですが、対角順に少ないトルクから段階的に締めましょう。
(写真は仮組みしたところ)
この締め付け作業、めちゃくちゃ大変です。60Nmものトルクで締めるのですから、エンジンごと回っちゃってボルトに力が伝わらないのです。エンジンを股で挟み、なんとか回せました。
さて、大変な作業お疲れでしょうがここでもう一踏ん張りです。
カムチェーンは輪っかになった状態でやって来るわけですが、これを引っかかるのもまた大変。
チェーンはチェーンガイド(19)を介してテンショナー(18)でテンションをかけられてますので、
テンショナーを取っちゃえば簡単に引っ掛けられると思いきや、それでも結構パンッパンな状態です。
要は、そのテンションに打ち勝つ力で引っ張りながらカムシャフトに引っかかる必要があります。
しかも引っかかる際は1コマの狂いも許されません(多分)。
チェーンを引っ張り、カムシャフトの位置を合わせ、引っ掛けましょう。
(よいしょーっ)
上手くいくと、上の写真のようにカムシャフトのギア(ピニオン)に空いた穴とロッカーアームシャフトの穴が同心上に来るはずです。(ピンクのマーキングは間違いなので気にしないでください…一応、ピンクの位置で合わせても組み上がるのが怖いところ)
ここまでくれば後は簡単。
次はロッカーアームとそのシャフトを入れます。
ロッカーアームシャフトにはオイルラインの穴があり、天地逆に取り付けると以降のラインがオイル循環されななくなり、またベアリングを壊しかねないので気をつけてください。わかりづらいですが、フラット面を上に。
(天井側がフラット面になってるの、わかりますか)
ここまでくれば、もう完成といってもいいでしょう。
ついでにバルブクリアランスも見ておきます。
バルブクリアランス調整
調整はクランクを上死点に合わせた状態でロッカーアームとシムの隙間を測ります。規定値は…0.07〜0.13…っと
(スッ…)
ダメですね…ちなみに結果は
EX右 2.673 0.14❌0.13⭕️
EX左 2.701 0.19❌ 0.18⭕️
IN右 2.563 0.14 ❌ 0.13⭕️
IN 左 2.556 0.16❌ 0.15⭕️
全部ダメでした。最初の数字はシムの厚さ、❌が入らない最小の厚さ、⭕️が入る最大の厚さ。
1万5千キkmぐらい走ると要調整のようです。(訂正:部品交換した後なので当てになりませんね)
適切なシムを手配です。部品を待つこと2週間…
(出陣じゃぁー!)
エンジンを載せよう
当然ですが 載せる作業は下ろすより大変。何せ大変重いのです。車体の真下に持っていくまで1時間以上かかりました…
次にエンジンを固定する3つのボルトの位置をピタッと合わせるため、上下前後左右各方向の位置と傾きを微調整する必要があります。
(エンジンを固定する3つのボルト穴)
この作業、リフトが1つしかない私にはかなり困難な作業になると予想していました。…そこで今回は新兵器を導入。
それがこれ
(これあれば勝ちゲー)
パンタグラフジャッキです。のせる作業は2日間を予想してましたが、こいつのおかげで1日で完了。
…のはずでした。そう、ここにきてやらかしてしまったのです。
インジェクションノズル破損
初心者作業なので色々壊してしまうだろうとは思いつつ、ここまでは順調にこなしてきたつもりですが、とうとうやってしまいました。スロットルバルブの構成部品、インジェクションノズルを破損してしまったのです
( 同じ轍を踏まないようにしてください)
原因は単純。スイングアームピボットにエンジンを通し、パンタグラフジャッキでクルクルとリフトアップしていたら、スロットルバルブをエンジンとフレームで挟んでしまい、一番弱いところを折ってしまいました。
(伝わるといいなぁ)
パンタグラフジャッキだと大きな力も簡単に生み出せてしまうので注意が必要ですね。
スロットルバルブはフレームから話しておいた方が吉。
(新品との比較)
インジェクションノズルはエンジンを乗せ終えてからも交換できるのでとりあえず組んで、壊した部品の到着を待ちます、
そして2週間後…
たぶん完成!
ラジエータ液とオイルを入れ、バッテリーをはめ込みます。
では、はじめます…
この時の喜びといったらそれはもう…
この後何度かオイルでフラッシングをし、無事完了となります。
いざ、試運転
(やすらぎの地 バイク量販店にて)
エンジンの調子はというと…月並みですが、吹け上がりが良くなりました。
特に加速時の鼓動感がすごく気持ちいいです。1サイクルごとの爆発がはっきりわかるようになり、音も(大げさに言えば)以前はブロロロと少し篭った音だったのが、破裂音がはっきり聞こえるポコポコッポコッという音にかわりました。
バルブシート面の擦り合わせによる効果が主たる要因と思いますが、カムチェーンを新品に変えたことも効いていると思います。
なぜなら、カムチェーンだって長く使っていると伸びるはず。伸びることでクランクとカムのタイミングがズレ、適正な圧縮比で点火できなくなるだろうと思うからです。
それからしばらくは近所を走り問題がないことを確認、最後のオイル交換を経て、全工程の完了としました。
作業は大変でしたが、状態も良くなり満足です。
気になるその費用
今回の作業、いわゆる腰上メンテナンスに当たると思います。となれば、ディーラーに預けてたなら20万ほど。
自分でなおせばいくらかかったのかというと
(文字が小さくて読めないかも)
約12万5千円です。これ、結構いい資料ですよね。記録していてよかったです。
安く済みましたが、あと7万5千円でプロによる安心感が得られるとも考えられますね。
どっちがよかったんだろうか悩みますが、考えないようにしています。
最後に
2016年12月25日、KTM 690 SMCRのエンジンが再び動くまで約2ヶ月間、不安もありましたがいい経験ができました。
なによりも自分のバイクをより身近に感じられるようになったのが一番の収穫です。
長くなりましたが、みなさんの参考になれば幸いです。
スプロットを交換
先日の記事で晴れてSMCRにオフホイールを履かせることができ、いよいよオフライダーの仲間入りです。
早速お山ツーに行ってきました。
(この道の向こうに楽しいオフライダー生活を想う…)
あらゆる轍を超え、モリモリ山を登る立派な雄姿がそこに…はありませんでした、残念です。
以下、その詳細を綴ります…
上り坂
67馬力もの出力を秘めたLC4エンジンを提げて挑んだ緩やかな勾配は……思いの外強敵でした。
その原因が低回転におけるトルク不足にあることは、登り始めてすぐに気づきます。
ある程度の回転数が無ければパワーが引き出せず、かといって回転数を上げて走るは恐怖との戦い…
結局、アクセル開けつつの半クラを余儀なくされ、少しでも雑にクラッチをつなごうものならエンスト→転倒は明らかでした。
(登れぇぇぇぇぇぇ…あぁはぁん……ポテッ)
下り坂
モタード用にチョイスされた強力な制動力を誇るフロントブレーキ系統を以ってすれば、目前に現れた長く緩やかな下り坂は……やっぱり強敵でした。
まずエンブレが効きません。アイドリング速度が安心速度を上回る為、常にブレーキングしながらの下り道でした。
しかしながら慣れないオフブーツによるペダル操作がなかなか難しく、ノーブレーキ or リアロックの二者択一を迫られ、これでは安定して下れません…
ならばフロントブレーキはどうか?
ご存知の通り、峠のコーナーリングと違い、悪路でのラフなFブレーキ操作は容易にバイクの安定性を失わせます。
林道ライダーの皆様の常識を持ち合わせていなかった私は、フロントロックからの転倒を繰り返すことでその常識を学ぶことになりました…
(下りのゴロゴロ道ではなす術なく…)
あまり写真がありません。
十数回にわたる転倒により体力を消耗し、3リットルもの水分と山頂で食べる予定だった土まみれのおにぎりが底を尽き、やむなく下山…
いずれもモタードタイヤではなんとかクリアできていた箇所なだけに悔しい
こ、んなはずでは…
反省会
いくら転けてもなかなか壊れないSMCRですが、それでも色々壊れてきました。
自分の腕のなさ、無計画さに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
(プラプラしながらも家まで仕事をしてくれたウィンカー)
(最初で最後のお世話になったエンジンガード。 後ろ側の取り付け穴が衝撃で大きく広がり、今にも落ちそうに。)
(お気に入りポイントだった歪曲面をもつヒートガードもプラプラ…)
もはや私にできることは平地での車両整備のみ、精一杯やろう。
そう思いながら各部点検中に意外な事実に気づきました。
(ん……?KTM40…?)
スプロケの交換
購入したリアホイールについていたスプロケット、その歯数は40丁。
ENDURO Rのデフォルトが45丁、SMCRのデフォルトが42丁ですから、さらにロング、高速側の設定です。
簡単にまとめると、
リア フロント 減速比
ENDURO R 45T 15T 3.00
SMC R 42T 16T 2.63
現状 40T 16T 2.50
タイヤ径が大きくなったのと相まって、地面を蹴る力が格段に弱くなっていました。
そうとわかれば話は早い。スプロケの交換です。
この際、フロントも2丁下げて、リアは5丁上げることにしました。
リア フロント 減速比
交換前 40T 16T 2.50
交換後 45T 14T 3.21
整備中の小話
小話その1
スプロケを外していて気づきました。チェーン、取り外せるのでは?
(クタクタなチェーン)
↓
(取り外せました!思いっきり綺麗にしてやるんだ…)
小話その2
ウィンカーをENDURO R用のものに取り替えることにしました。ポン付けできるだろうし、小さい分転倒時に接触しにくいことを期待して。
しかし…
(線の長さが違う…)
ENDURO R用のウィンカーはなぜかコネクタまでのケーブルが短く、延長しなければ本体側コネクタに届きませんでした…
小話その3
リアを45Tにしましたが、チェーンガイドとの隙間がギリギリです。
(50Tもあるそうですが、取り付け可能なのかな?)
早速お山へ…
(いざ…約束されし勝利のお山へ…)
それはもう、抜群に乗りやすくなりました。
もはや天使の羽ばたきのごとく優しいクラッチワークは不要です。3000〜5000rpmの扱いやすい回転数域でグイグイ進みます。
苦手だった下り坂だって、しっかりエンジンブレーキが効き、スタンディングでも怖く無い!
ある程度の上り坂だって何のその。モリモリ登ります。
そう、深い轍にあっても、このトルクがあれば進路変更だってこなし…
(ブォーーーン!)
勢い余ってえび反り状態になり、リアフェンダーが轍の側面を掬ってしまった結果、フェンダーが折れてしまいました…
(新品のウィンカー….)
この日は大人しく帰ることに。
最後に
長々と書きましたが、warp9 racingでオフホイールを買う場合、ドリブンスプロットが40Tである事、注意してください。
KTM 690 SMC Rにオフホイールをつける方法
KTM 690 SMCRをはじめとするモタードは基幹林道程度の未舗装路なら難なく走破可能です。
そのため、好んで林道を走るモタードライダーも多いのではないでしょうか。 (素晴らしい景色に出会えると幸せ)
私も林道大好きモタードライダーですが、林道愛が高まるにつれ次第に未舗装路におけるオンタイヤの性能限界に行き当たり、悔しい思いをすることが増えてきました。
(何度引き返したことか…)
ところで、みなさんご存知の通りSMCRはその兄弟分としてオフロード車のKTM 690 ENDURO Rがラインナップされており、そのパーツの殆どはSMCRと共通化されていることはパーツリストから明らかです。
(SMCR 上 とENDURO R 下 )
ということは、SMCRにENDURO Rのホイールをつけることができれば、高まる林道愛を満たすことができるのではないか?
林道大好きSMCRライダーの皆様なら、そんな疑問を一度は抱いていたことがあるのではないでしょうか。
以降、そんな疑問に取り組んだ私なりの結果を報告したいと思います。
準備するもの
1.ENDURO R用前後ホイール
KTM純正を買うと前後で17万ぐらい必要です。しかし、Warp9 Racingというサイトで買うと、パーツ毎に好みの色にアルマイト加工でき、ブレーキディスクやスプロケも付いてなんと前後10万ほど。しかも決済から20日程度で到着しました。
(wrap9 racingのホイールチョイス画面。選択に応じてグラフィックが変わるワクワク仕様)
(invoice 参考に載せておきます。)
なかなかしっかりしたショップだなぁとの印象を受けましたが、とある外人さんがモタホイールを買ったら、ハブの幅が数ミリずれてて付かない、問い合わせても回答がない…との記事がありました。何があっても何とかする自信がない人は純正が安心です。
Warp 9 Racing - The Best Wheels in the World
(到着したホイール達。やたらオレンジにしたことを後悔…)
スプロケ・スプロケサポートは必須ではないですが、あるとモタード・オフロードの切り替えが楽になりますね
(スプロケサポートは互換性がありそうです。写真はスプロケサポートを取り替えてつけてみたところ)
2.ホイールマウント用スペーサー
I.D. 26mm、O.D. 38mm t 3mm 1個
I.D. 26mm、O.D. 38mm t 7mm 1個
ハブの外側に付けます。外径は別に38じゃなくてもOKです。38だと見た目が良い、という理由から。
(色々な厚みを準備した。最終的に3mmと7mm(5mm+2mm)にたどり着きました。岩田製作所製、発注後2日で到着。それぞれ約750円/個)
3.ブレーキディスクオフセット用スペーサー
I.D. 6mm、O.D. 何でもOK t 2mm 8個
ハブのとブレーキディスクアダプターの間につけます。
(バイク量販店で入手。2mmがなかったので1mmを2枚重ねにした。)
他、タイヤやチューブ、リムバンドはお好きなのを。
リアホイール取り付け
ポン付けなので何ら悩むことはないでしょう
(後ろだけオフホイール)
フロントホイール取り付け
フロントは少々ややこしい。
なぜなら、SMCRとENDURO Rはフォーク間寸法、及びホイールセンター〜キャリパーセンターまでの距離が異なり、ポン付けとはいかないからです。
以降、写真を撮らなかった為に文字メインの説明になります。手が汚れてスマホ触りたくなかった…
まず、フォーク間寸法の違いを解決します。
フォーク間寸法は、具体的にはSMCRの方が10mm(片側5mmずつ)広く、そのままENDURO Rホイールをつけるとガタつく格好になる。
ガタを無くす解決方法は単純。
- スペーサーブッシュの外側にスペーサー(I.D. 26mm、O.D. 38mm t 5mm 左右各1つ 手配不要)を入れて隙間を埋める
または
- SMCRのスペーサーブッシュ(パーツリストの7番)をENDURO Rに移植する
の2通り考えられる。どちらも同じことなので前者で試してみることとした。(後ほどわかるが、このとき使用したスペーサー(I.D. 26mm、O.D. 38mm t 5mm 左右各1個)はお蔵入りに。)
次にブレーキディスクをキャリパーのセンターに合わせる必要がある。
これも簡単。
フロントブレーキディスクアダプター(上画像22番)をSMCRホイールから取り外し、ENDURO Rホイールに移植する。これで10mmオフセットでき、寸法上はブレーキキャリパーセンターにディスクが来ることになる。
結果は予想通り、ホイールは付いた。
(とりあえずついた…とりあえずは。)
当初の計画では、これにて晴れてENDURO Rホイール取り付け完了予定でした。
しかし実際はまだキャリパーとスポークが1mm程干渉し、ホイールが回らない。
ホイールはフォーク間センターに位置し、ガタつきもなく、ディスク位置もバッチリなのに…だ。
フロントホイールのオフセット
干渉の理由は、SMCRのキャリパーがENDURO Rのソレよりもゴツいからだろうか。
とにかく、ホイール(スポーク)とキャリパーの干渉は1mm程度なのでホイールとキャリパーを2mmほど離せば、干渉回避できる。
ポイントは、キャリパーに対する現在のディスクの位置をキープしつつ、ホイール"のみ"2mm動かさなければならない点だ。
何故なら、ディスクごとずらてしまうと、キャリパーのセンターからディスクがずれてしまうからだ。
そういうわけで、方針としては、ホイールをディスクごと2mm、右側(ブレーキレバー側)に寄せ、続いてディスクのみ左側(クラッチレバー側)に2mm寄せる方針を立てた。
つまり、ホイールを右側に寄せるために
ホイール左側スペーサーブッシュの外側に入れていた5mmのスペーサーを7mm(5+2)に変更
(内側から2mm, 5mmとスペーサーを取り付けた様子)
ホイール右側スペーサーブッシュの外側に入れていた5mmスペーサーを3mm(5-2)に変更した。
(3mmスペーサーを取り付けた様子)
さらに、ここからディスクのみ左側に2mm寄せるために、ハブとブレーキディスクアダプターの間にブーキディスクオフセット用スペーサー(8個)をいれた。
(2mmのモノがすぐ手に入らなかったので1mmを、2枚重ね。この時、気になる方は固定ボルトも2mm以上長いものに変えると良い。)
その結果、干渉は回避された。
(やっと回った!)
懸念
鋭い方は以下の点、懸念があることにお気づきだと思う。
- 距離計(スピードメーター)狂うのでは?
- フロントタイヤ、センターより2mm、右側にずれてるのでは?
スピードメーターはディーラーにお願いするのが正攻法。
しかし、フロントタイヤのズレは気になるところ。これを解決するにはENDURO R用キャリパーを用意しなければならないが、それにはコストがかかるだけでなく、SMCRホイールに戻すときキャリパーも取り替ええないといけなくなり至極面倒だ。
幸いにも私の腕では特に影響は感じられなかった。
試運転
早速山へ…
(万が一に備え工具満載で…)
(スタックと格闘中…)
(山に入ったことを後悔)
(試運転完了)
無事、試運転は完了。
最後に
本記事の内容について当方は一切の責任を負えませんので、参考にされる際は安全な場所で入念な試運転をお願いします。当方もまだ不安もあり、工具満載で出かけています。
初めてのブログ記事ゆえに不便もあるかもしれませんが、何かあればコメントください。
本記事がSMCR乗りの方にとっての有益な情報になれば幸いです。